スタテン・アイランド

2015年3月



スーツ姿で足元にはスニーカーといういでたちの女性がフェリーでマンハッタンのウォール街まで通勤する・・・そんな冒頭のシーンが印象的だった映画「ワーキング・ガール」を御存知でしょうか?1988年公開で、キャピキャピOLがステップアップしてキャリア・ウーマンになっていく姿を描いて人気でした。映画の本筋とはあまり関係ないのですが、この主人公がスタテン・アイランドに住んでいる設定で、マンハッタンにある職場まで毎朝フェリーを使って出勤するというのを意外に思った人が多かったようです。


実際にフェリーで出勤する人は存在するのか?ボナ・ペティ編集長には疑問だったようで、珍しく原稿依頼がありました。答えはイエス!映画公開から30年がたち、スーツにスニーカーという女性はフェリー乗り場でもあまりみかけませんが、フェリーはあの頃も今も無料で運行されています。平日だけで約7万人が毎日フェリーを利用するそうです。


フェリーから見た自由の女神像
フェリーから見た自由の女神像

スタテン・アイランド・フェリーは大体1時間に2本、ラッシュアワーなら1時間に4本、スタテン・アイランド北端とマンハッタン南端をノンストップで24時間運航しています。通勤時間以外はだれも乗らないのではないか、という疑問があるかもしれませんが、意外と観光客に人気があるのです。実はこのフェリー、自由の女神像の近くを通ります。だからリバティ島に上陸する時間のない人やお金をかけたくない人にはフェリーから観光するのが最適なのです。25分かけてスタテン・アイランド島に上陸すると、そのまま乗り場に向かってマンハッタンに帰っていく人も大勢います。そして帰りにはマンハッタン島を海上から俯瞰できるので、中々楽しめます。

 

そもそもスタテン・アイランドとはどんな島なのか・・・という前に、ニューヨーク市の説明をしましょう。ニューヨーク州というアルバニーを州都とする広い州の中にあって、観光地としてのいわゆる「ニューヨーク」は「ニューヨーク市」をさすことが多いです。ニューヨークは五つの「ボロー(Borough)」とわれる行政区から成り立っています。その五つはマンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタテン・アイランドです。五つの行政区のうち、マンハッタンとスタテン・アイランドの二区は島で、ニューヨーク市というのが海際にあるということがよくわかると思います。スタテン・アイランドは一つの区として成り立っているぐらい大きな、電車や路線バスも走る島なのです。ですが、ニューヨークの中心であるマンハッタンに行くには車で橋を渡るかフェリーに乗るしかありません。スタテン・アイランドに限らずマンハッタンと各地をつなぐ橋は有料で、マンハッタンの駐車場は東京の都心部と変わらないかそれより高いぐらいの料金設定です。そんなわけで、フェリーを使う人は多いのです。


自由の女神像の前を通るフェリー
自由の女神像の前を通るフェリー

スタテン・アイランドには何があるのかというと、ほとんどは住宅地なので観光客がフェリー・ターミナルを出てこの島に来ることはあまり多くはないのです。マンハッタンに住む人は夏にビーチにいったり、野球を見に行ったりでしょうか。ニューヨーク・ヤンキースの二軍にあたるスタテン・アイランド・ヤンキースの本拠地の球場がフェリー・ターミナルのそばにあるのです。でも、スタテン・アイランドに行ったことがない人も多いです。もっと観光客を呼び込もうと現在フェリー・ターミナルの近くに観覧車やアウトレット・モールを建設する計画があります。



年に一度、フェリーが増便されるほど大規模なイベントがあります。マラソン好きなら御存じのニューヨーク・シティ・マラソンです。ゴールはかの有名なセントラル・パークなのですが、スタート地点はスタテン・アイランドに設定されています。このマラソン、「シティ」を銘打っているだけあって、多少のルート変更はあっても必ず五つの行政区を通るルートになっています。


行きは自由の女神像を、帰りはマンハッタン島の眺めを堪能したい方にはおすすめのスタテン・アイランドフェリーですが、マンハッタンに戻ってきたらフェリー・ターミナル内に小さな市がたっていることもあるのでぜひ冷やかしてみてください。ニューヨーク州特産のリンゴや季節の果物、メープルシロップ、手作りのパイなどを販売しています。いわゆるアメリカン・パイは一流のパティスリーのように洗練されてはいませんが、地元の果物やナッツで作られた素朴な味わいがニューヨーク市も農業の盛んなニューヨーク州の一部だったことをほっこりと思い起こさせてくれます。

フェリーから見たマンハッタン南端
フェリーから見たマンハッタン南端