教訓多きノルウェーの旅

2012年10月

        絵葉書そのままのフィヨルドの景観
        絵葉書そのままのフィヨルドの景観

「ノルウェーは、とても物価が高いうえに食べ物がまずい。特に酒類が高かった」と友人に言われて、それなりに覚悟してオスロに旅立ちました。観光中のどが乾きカフェに入り、我々は水やジュース、夫は勿論ビールを注文し「ここのビールもおいしいよ」と満足気味でした。ところが、勘定書きを見てエッ・・・と絶句。ビール小ビン1本約1000円。消費税がベルギーより高いとはいえ、これは予想以上のショック。2人の子連れのこれから先を案じ、飲み物や果物などを買いにスーパーに走った私でした。

 

オスロの宿はGrand Hotel。劇作家イプセンや画家ムンクも通った“Grand Café”のある格式高いホテルです。朝食のビュッフェはさすが充実しています。そこでノルウェー名物といわれるヤギのチーズ、イエイトスト(Gjetost)に挑戦しました。これはチーズ好きの我が家が、ベルギーで食べているチーズの外見とは全く異なり、チョコレート色なのでびっくり。でもヤギ特有の臭いもなく、ほんのりとした甘味のあるとても上品なチーズなので、ノルウェーに行ったら食べることをお勧めします(結論から先に申し上げると、これが今回の旅での唯一の収穫でした)。

      ベルゲン鉄道から見た幾重にも流れる水流                             フロムの滝

 

 レンタカーでの今回の旅行のハイライトは、フィヨルド地方3泊の景色です。食物への期待は始めから捨て、大自然に絞ったわけです。神秘的なブルーの水をたたえた湖、その湖面に映る山や雲、流れ落ちる滝など、カメラに収まりきらない圧倒的な自然美は、山好き人間でなくても充分堪能させてくれます。

しかし、風景はお腹を満たしてはくれず、食事時になると憂鬱になりました。料理はバラエティーが乏しいうえにハッキリ言ってまずい! 肉料理といえばステーキか肉団子(チョットカーカー jottkaka)。しかも焼きすぎて固いステーキや、つなぎの小麦粉の味ばかりする肉団子が、大きな顔をして平気で出てきます。その他、黒焦げのカツレツ、火が通りすぎてカチカチのラザニアなど枚挙するときりがありません。魚料理は鮭のステーキ(ただ焼いてあるのみ)、付け合わせはどこも生の白菜と缶詰のコーン(缶詰ですよ、信じられますか!)。我慢できずに3泊目の夕食は自分たちで調達すべくスーパーへ直行。しかし、プチトマト1ケース500円、きゅうり1本300円。値段も高いし種類も少ないのですっかりあきらめ、イワシの缶詰と出来合いのポテトサラダで済ませました。

 

 5泊目はベルゲン(Bergen)。少し大きな港町なので、“今日こそは”と期待に胸ふくらませ、意気込みました。はたして、魚市場に並んだ魚はさすがに北欧。サーモン、あんこう、たら、海老など種類も豊富でピカピカと新鮮そのもの。でも、この数日間の苦い体験から、せっかくの素材もこちら風に料理されてはかえって台無しというわけで、中華料理と日本料理をやっている店を選びました。

これが大正解。鮭と鯨の刺身、茹でた甘えびのカクテルなど、久しぶりに大満足(といっても、新鮮な素材に手を加えることなく食べただけですがね)。もっと美味しいものがあるはずだと、ガイドブックのノルウェー料理のメニューをチェックしたところ、載っているのは “素材の名前”と、“焼く”“蒸す”などの料理方法のみで、旅行者に紹介するような料理名(たとえばベルギーのカルボナード・フラマンド=牛肉のビール煮)などは存在しないのでした。

 

 オスロの最後の夜は贅沢にというわけで、ホテルの高級レストランGrand Caféでの食事をはりこみました。私は骨付き仔羊、夫は鯛によく似た魚のグリルを注文して、やっとまともな料理を食べた気がしました。が、辛口ついでにもう一言いわせてもらえば、どちらも一切れが大きく、塩がききすぎの割には大味でした。しかしレストランの雰囲気は文句なしでしたよ。

ベルギーだったら、お金を取れない様な内容の食事と、バラエティーのない野菜を食べ、そのうえ高い勘定書きを払ってきた夫は、ベルギーが本当に恋しくなっていました(もちろん我々も)。空港で買った唯一のお土産は、あのイエイトストチーズのみでありました。

 今回のノルウェーの旅は、食べるの大好き家族の私達に、食の楽しみを諦め我慢すること、食にこんなにも無関心な国民もいるのだ、という発見をさせてくれた貴重なものといえます。しかし、そのずばぬけた自然の素晴らしさは、感動以外の何ものでもなかったことを付け加えたいと思います。というわけで、安くて美味しいものが手に入るベルギーに再感謝をいたしました。