コスタ・デル・ソル スペイン
2012年8月
ピレネー山脈上空を越えると、大地の色が茶色に変わる。大麦と食用油用のひまわりの収穫が終わった後だからとはいえ、オリーブとコルクの木でうっすらと緑に化粧した山々の地は、殆ど石ころの転がる荒涼とした茶色の大地だ。一体この大地のどこにあれほど豊かに農作物が育つというのか不思議になってしまう。というのも、ベルギーのスーパーに安く出回る野菜の多くはスペイン産のものだからである。
さてこの夏は、太陽と栄養の補給に、スペインのアンダルシア地方にバカンスに行ってきた。スペインで出会った“美味しいもの”は沢山あるけれど、中でも私達が楽しみにしていた海鮮料理の類は「料理などど言えるものではない。」とスペイン在住20年のガイド氏が笑い飛ばすほど(彼にいわせれば、パエリヤだって料理なんて言えるほどの手間は掛かっていない・・・そうだ)簡単・明快・素朴なものだ。
コスタ・デル・ソルの海岸に着くとビーチの前の通りには、海鮮料理の店が建ち並んでおり、店先にはその日のお勧めの食材が冷蔵庫や水槽の中に入って陳列されている。また、ビーチに張り出したレストラン・バーのあちこちから、砂の上に熾した炭火で魚を焼く煙が上がっている。串に刺されたイワシや鯛があまりに美味しそうだったので、それらの店の一つに入ることにした。
砂を縁までいっぱいに盛って平にした古い木造のボートの上に火を熾して、魚を串刺しにして火の回りにかざして焼くのだが、ある店の焼き場担当のお兄さんがすご~くきれい好きのようで、調理台の上の串は縦横にキッチリ並べられ、もちろん台の上の皿は鱗の一つさえついていない。私たちが通りかかったときにはボートの下に水を打ってブラシで掃除をしていたくらいだ。しかし、黙々と仕事をしていたお兄さんも、私たちの姿を見ると大きな声で手振りを交えてにこやかに話しかけてくる。“おいしいよ!ここで食べていきなよ、日本人だから魚好きだろ!!”とでも言っていたのかもしれないが、そういう彼の打って変わったけたたましさを見て、「あ~やぱりラテン系だったね~。」と私達は顔を見合せて笑い、このレストランに入ることに決めたのだった。
あのイワシが食べたい、あれは一体何という食べ物か…”結局例のお兄さんの所へ行って聞いてみた。「サルディーネス・ア・ラ・ブラッサだよ!」彼の言うところによると、”ア・ラ・ブラッサ”は”串焼き”(という意味で、その他に”ア・ラ・プランチャ”=鉄板焼、”ア・ラ・パリージャ(パリーリャ)”=串焼き、なんて焼き方もあって、食材に合わせて焼き方も頼むと良いと教えてくれた。この3つの言葉がその後、”シンプル・シーフード”一辺倒であった私達にとって大変重宝したのは言うまでもない。
さて、焼いてくれたイワシの美味しかったこと、臭みも全く無く、塩とレモンだけの味付けがまたさっぱりとして美味しかった。スペインは岩塩が有名で、塩がとても美味しいのもこういう調理方法にはうってつけだ。
夫婦で話もせず、ひたすらイワシにかぶりついていた私達の横で、スペイン人の賑やかなグループがテーブルを囲んでいた。「現地人は何を食べているのかな?」と興味をそそられて覗き見てみたところ、土鍋の中に山と入ったアサリ(ナチュラルと漁師風とあって、前者は白ワイン、オリーブオイルとニンニクのみ、後者はそれにトマト、ハーブが入った味付け、両方とも美味しくて私達も以降病みつきになった)、ほたるイカの唐揚げ(その他、片口イワシの唐揚げも美味しい)であった。そしてその直後、店のおじさんがトレイを押して持ってきた、大きな木箱に入っていた白い物体に目が釘付けになった。白いものは塩の固まりらしい。おじさんがスプーンでコンコンと叩いて一部を崩すと、中から美味しそうに蒸し上がった鯛が現れた。鯛を塩で包み固めて焼いたものらしい。取り分けている手元を見ると、ジューシーで、ホクホクしていてすごく美味しそうだった。このバカンス中にこの鯛を味わう機会はなかったけれど、あれは絶対美味しいと思うので、皆さん一度試してみては?
さて、その他にスペインに来て初めてお目に掛かったもので、すごくおいしかったのは、”カラベネーロ”というエビ。日本の車エビと同じくらいの大きさで、頭から尻尾まで真っ赤で、まるで”プラスチック製かしら?”と思うような色と艶をしている。これを”ドス・カラビネーロ・ア・ラ・プランチャ!(カラビネーロを2匹、鉄板焼で!)”などと、教えてもらった単語を駆使して頼むと、塩焼きにしてライムを添えたカラビネーロちゃんがドド~ンと出てきた。驚いたことに、目の前でおじさんが、焼いたエビの頭の部分の甲羅(?)をナイフでそぎ落し、小さなスプーンを添えてくれ、”ここも食べるのだ!ミャン、ミャン、ミャン、だぞ(すっごくおいしい)!!”と身ぶりで教えてくれた。甲殻類の味噌の部分を食べるのは日本人だけだと思ってたのに…・味はカニ味噌よりも甘味のある感じ、身もプリプリしていてこれも甘味があって、大きなエビより味が濃い感じで美味しかった。他にも手長エビも少々高めだが美味しかった。
ビーチに張り出したテラスで、目の前の地中海を見ながら美味しい海の幸をいっぱい堪能して、大満足のバカンスでした。
最後に、美味しいものの宝庫アンダルシアを旅した者として、これはと思うもの
を紹介します。
まずは生ハム、ハモン・セラーノ(白豚の生ハム)とハモン・イベリコ(黒豚の生ハム)とありますが、何と言ってもイベリコの方が圧倒的に美味しい。塩辛くなくて、まったりしていて実に美味しい。腿ごと吊るしてあるハムの爪の黒い方が黒豚です。
次は、オリーブ生産世界一のスペインの中でも最も良く知られているのが、アンダルシア北部のハエン県のオリーブ。質量ともにスペイン一。実も肉厚でとても美味しい。
ハム・オリーブときたらこんどはワイン。ワインの生産量としては世界三位でも、スペインがワイン用ブドウの作付け面積世界一だということはあまり知られていない。その中でもアンダルシア地方西部のへレス・デ・ラ・フロンテーラはシェリー酒で有名なところ。スペインではチェリー酒のことをヘレスというくらいだ。“ディオ・ペペ”などの銘柄が有名だが、地元の人が愛飲しているのは“ライーナ(LAINA)”だそうだ。
このほかにも書き尽くせないほど美味しい物が沢山あるスペイン。今度は皆さん自身で旅してみて下さい。新しい発見があること間違いなしです。