2012年11月
タイ王国といえば、トムヤムクンに代表される美味しい料理とトロピカルフルーツ。美しい海や古都チェンマイに代表される山岳地帯がある素晴らしい観光王国だ。微笑みの国の大使にお話を伺いました。
街の中心からソワーニュの森方面に走るトラムに乗り、マロニエの街路樹が美しいテルヴューレン通りにある大使公邸に向かった。白亜の瀟洒な建物に入ると、微笑みを讃えた女性が出迎えてくれ、サワディカと両手を顔の前で合わせてタイ式の挨拶をする。挨拶が板についていると誉められたのは、タイ人の友人が増えたおかげ。日本のお辞儀とちがい、相手の顔を見て笑顔で手を合わせるこの挨拶、相手を敬う気持ちが現れているようで、私は好きだ。大使もにこやかに手を合わせてくださる。
大使のベルギー赴任は2011年4月。以前はスウェーデン大使もなさったそうだ。高校卒業後、政府の国費留学生試験をパス。英国に派遣され10年半学び帰国するというスタートを切った。英国紳士然とした穏やかな物腰しで、気さくに質問に答えてくれました。
―ベルギーの国をどう思いますか。
ヨーロッパの中心にあるので、世界事情が肌で感じられます。他国に行くのに地理的に便利で住みやすく、フレンドリーで仕事がスムーズにいきます。食べ物がおいしいのは自国と同様です。言語がいくつもある点も似ていますが、異なる点もあります。タイには4つの大きな地方があります。各々気候も言葉も食べ物も違いますが、我々は全て、自分をタイ王国の国民だと思っています。
―タイ人を一言で言い表すと。
新しい考えや様式を受け入れることに柔軟です。太古はインドや中国文明の影響。以後も西欧諸国と近隣国、イスラム教のマレーシアなど、四方を囲こむ国々の影響を受けますが、それをうまく自分の肥やしにして、新しいものを作りあげます。いいかえると、タイ人はブレンドの仕方に長けているといえます。食べ物を例にとると、インドのカレーと中国のヌードルの影響が、カレーヌードルを作らせた様に(笑)。
―名君の誉れ高い現国王について
ご存じの様にタイ王国は19世紀後半から近代化を図りました。ラーマ五世は、イギリスやフランス、ベルギーやオランダなどから知識人を招き、司法、行政組織の改革や鉄道敷設、教育制度の制定などを実行。またその外交手腕により当国が大国の植民地になることを防ぎました。この様に歴代の国王は民の安全に心血を注ぎます。12月5日で85歳をお迎えになる現国王も、国民の安全と団結に心を砕き、国民から絶対的に慕われています。絵画や音楽にも秀でておられ、オーケストラ用の作曲も含めて50曲余りの作品が発表されています。ジャズがお好みでご自分でもサクソフォーンの演奏をなさいます。アメリカでプロと共演したことも何度もあります。
―日本について
70年代には両国間であまり快適でない時期もありましたが、タイ国民は日本人が大好きです。両皇室もとてもご懇意にされており、今生天皇がご即位後初めて外遊された先が当国でありました。日本企業のタイへの進出も多く、見習うところが大変多い、なくてはならないパートナーです。
―趣味など
大使のご趣味はゴルフと音楽鑑賞。料理は英国時代には自炊していたし、フランスで料理のレッスンも受けたという。お好きな料理を尋ねると、バッタイというタイ風焼きそばや澄んだスープなどのベーシックなものだそう。タイ料理の基本は、辛味、酸味、甘み、ナンプラーの塩味で、豊富な種類の香草と魚介類とが上手く混ぜ合わさり旨味を出していると、さすが美味しい国の大使。料理にも雄弁でした。
インタヴューを終えると4時頃にもかかわらず、料理が運ばれてきたのにはびっくり。こんな時間に・・・といぶかる私を見て大使は、「タイ人は一日中食べています」と笑いながら勧めてくれた。大使の料理人が作る、目にも爽やかで美味しい料理。写真でおすそわけです。
余談ですが、ミュージカル映画「王様と私」の話をしたら、「あれはハリウッドの映画です。かなりの脚色がされているとお考えください」。国王が知識階層の知恵を要請したことからヒントを得た、あくまでも夢物語ということだ。しかし習慣や宗教を知らない人には、現実のことと思われる危険性がある。同じ様な経験を、アメリ・ノトンの小説「畏れ慄いて」で私もした。白人女性が日本の会社で理不尽な待遇を受けた体験が、虚実を交えて書いてあり、ベルギー人やフランス人、またかなりの知識層でも信じた風潮があった。「現実にないとはいえないけれど、でもちょっと違うのよね。例えば・・・」と、訂正やもみ消しに躍起となった私だった。