コム・シェ・ソワ物語

2015年3月



Comme Chez Soi

Place Rouppe 23, 1000 Bruxelles

 

www.commechezsoi.be

 

その数星のごとくと言われるほどベルギーにはレストランが多く、国の大きさからみると、ミシュランの星つきレストランがたくさんあることでも知られている。今回はキラ星中のキラ星「コム・シェ・ソワ」の三代に渡る“出世物語”をご紹介しよう。三代目のピエール・ウェイナンスは、1979年以来3つ星を堅持し続けたベルギーだけではなくヨーロッパの巨匠の一人である。

敬称略


1代目:ジョルジュ

プロローグは、ベルギー南部ワロン地方のシャルルロワの炭鉱夫の息子ジョルジュ・キュヴリェで幕を開ける。当時シャルルロワは石炭の一大生産地であり、ジョルジュの父親も炭鉱夫だった。しかし、彼は辛い仕事の炭鉱夫にはならないと決心、15才で郷里を後にした。利発で負けず嫌いのジョルジュ少年が入ったのが、使い走りや皿洗いから始まる飲食業だった。当時のレストラン業の労働条件は今と比べようもないほど過酷で、寝る時間もないほどだったが、少年は持ち前の不屈の精神でベルギー国内をはじめ、ケルン、ロンドンへと仕事を求めて、ひたすら驀進した。

爪に火を灯すようにためた小金で、ついに一国一城の主になったのが1926年。それはブリュッセルのどこにでもあるような下町の質素な食堂「シェ・ジョルジュ=ジョルジュのところ」であった。20人も入れば一杯になる店は、ステーキ&フリッツ、ムール貝の白ワイン煮、小エビのトマト詰め、ウナギの緑ソースといった家庭料理を得意とした。

ジョルジュの『素材には厳しく、お客様には温かいもてなしを』というモットーは、証券取引所やオフィス街の近くという地の利も得て、“安くて旨い”と評判になるのにたいした時間はかからなかった。

「ジョルジュ、ここに来ると我家で食べているみたいだよ」と常連客は声を揃えて言ったものだった。こうして店の名前がいつしか「ジョルジュのところ」から「コム・シェ・ソワ=我家で食べているような」となった。



2代目:ルイ

大衆料理の「コム・シェ・ソワ」は、ジョルジュの一人娘シモンヌと夫のルイ・ウェイナンスが現住所に移転したころから、高級なレストランへと変りつつあった。精肉業出身のルイは料理の知識だけでなく、料理には欠かせないワインへの造詣がことのほか深かく、それに加え、時代を読む力と商才に長けていた。新しい企画を次々と展開していった結果、客層は各国大使、政・財界の要人、医者、弁護士といった裕福な美食家達で占められるようになり、1953年ミシュランの1つ星を獲得した。

3代目:ピエール

ルイは、一人息子のピエールが学業になじまないのを察し、16才の時にブリュッセル随一の高級レストラン、サヴォイに見習いに出した。ピエールの才能はそこで水を得た魚のごとく開花し、周りを驚かせることになった。イギリスを皮切りに諸外国での長い修行に旅立ったピエールが、リエージュ公邸(前ベルギー国王)での料理人の仕事を最後に、やっと両親の待つ店に帰ってきたのが22才の時だった。1965年、25才のピエールはベルギー料理人コンクールで、プロスペール・モンタニュ大賞に輝いた、翌年ミシュランはルイとピエールの親子コンビに2つ星をつけた。1979年に3つ星を得たピエールは引退する2007年まで28年間それを維持した。

「コム・シェ・ソワ」は1975年以来「世界の偉大なテーブルdes Grandes tables du Monde 」協会に属している。この協会は世界中の2つ星以上のレストランが親睦を図る会で、ピエールはその副会長である。現在のピエールはベルギー人シェフ及びベルギーの食材を世界へ発信することに力を注いでいる。2014年には、ベルギーの16人のトップシェフの紹介とその得意料理のレシピの本「La cuisine Belge de Demain」を上梓した。

La cuisine Belge de Demain   Pierre Wynants, Philippe Bidaine 共著
Éditions Racine 29,95€

©EricMercier
©EricMercier

4代目:リオネル

ピエールの長女ローレンスは、小さい頃は両親を奪ったレストランが嫌いだったという。それを承知していた両親は、彼女がナミュールのホテル学校に入ると聞き驚いたそうだ。彼女がそこで出会ったのが未来の夫リオネル・リゴレだ。

料理人にとり「コム・シェ・ソワ」は雲の上のレストランなのでその名を知らないものはないが、ローレンスがそこの娘だと知ったのはずっと後のことだったという。リオネルは「コム・シェ・ソワ」で見習いとして働いたこともあるが、ベルギーやスイス、フランスと修行を重ねた。

1994年に結婚してオーナーシェフの婿として古巣に戻った彼に、先輩や同僚のやっかみなどがあったか問うと、「なかったといえば嘘になりますね。でもこの世界は実力ですから、シェフの義理の息子だといって、実力の無い者は認められません」。義父のピエールと共著で本も出版した「le Coeur gourmand de la Belgique」。ベルギーの食材を使った素人にも作りやすいレシピで、ベルギー食材のバイブルといえる。

 

そのシェフに、店のまかない料理のひとつ、ヴォル・オ・ヴォン(Vol au vent)を作ってもらった。一般的には折り込みパイのパイケースに入れるが、今回は外がカリッ内がホックリした揚げたてのフリッツが添えられた。また、ホワイトソースだけの手抜きのヴォル・オ・ヴォンが多いなか、本格的にサバヨンソースが添えられた逸品だった。

材料:5人分

鶏肉の調理用:

モモ肉10本(+/- 3 kg)、水3l、ニンニク8g,ニンジン120g、セロリ80g、ポロネギ120g,フレッシュタイム5g,ローリエ3枚、塩。

ホワイトソース用:

鶏の煮汁+シャンピニオンの煮汁500g,バター40g,小麦粉70g,生クリーム100g,レモン汁1/2個。

シャンピニオンの調理用:

シャンピニオン600g、バター20g,白ワイン25g,鶏の煮汁50g,レモン汁5g、塩と胡椒。

ムスリンソース(サバヨン)用:

卵黄(大)4個、バター160g,塩、胡椒、レモン1個、水大さじ2、白ワイン大さじ6