イーペルの猫祭り Kattenstoet le Cortège des chats
2015年6月
フランドル地方の町イーペル(蘭:Ieper 仏:Ypres)で3年に1度、5月の第二日曜日に開催される「猫祭り(蘭:Kattenstoet 仏:Cortège des Chats)」が今年も開催された。人口約1万5千人の小さな町に3万5千人もの人が集まるこの一大行事、その起源は中世まで遡る。
当時、イーペルは繊維業の一種であるラシャ工業を一大産業として栄えていた。暮らしの要である大切な毛織物をネズミから守るためにたくさんの猫が飼われ、とても重宝されていた。
しかし、ペストが大流行したとき、災いの根源と考えられた魔女狩りが行われ、その使いと言われていた猫も掃討された。その際、猫を塔の上から投げ殺したことから、年に1度、生きた猫を塔から投げるという行事が1817年まであった。しかしその後、この悲惨な歴史を悼む目的で、1938年から猫のぬいぐるみを塔から投げる現在の猫祭りが始まったと言われている。
直訳すると「猫の行列」というこのイベントのハイライトは、文字通り猫の衣装を身にまとった人々や、さまざまなテーマの猫の山車(だし)が旧市街を練り歩くパレードだ。
祭りのクライマックスは夕方行われるネコ投げで、旧繊維会館の塔の上からピエロが何十もの猫のぬいぐるみを投げ落とす。見事キャッチした人には幸せが訪れるというから、みな上を見上げて今か今かと待ち構える。ただ投げるだけでは面白みに欠けると、ピエロは人々の気分を煽ったり、笑いを誘ったりするもする。ぬいぐるみが飛んできやすい塔の正面部分は、我こそはと死に物狂いでぬいぐるみに食らいつく大人たちの乱闘現場と化すので、身体に自信のある人以外にはむやみに前へ向かうことはあまりお勧めしない。多少離れていてもキャッチのチャンスはあるし、十分にクライマックスを堪能できるだろう。
ひとしきりのクライマックスが終わった頃、広場の中心で魔女裁判と火炙りの刑が行われる。最後には実際に藁を燃やして魔女の人形が焼かれ、祭りは終焉を迎える。
今回は猫祭りについて取り上げたが、イーペルの町は、第一次大戦時に最前線として長期戦闘が行われたことでも有名だ。「メニン・ゲート(蘭:Menenpoort 仏:Porte de Menin)」には、50万を超える死者のうち5万人以上の名が刻まれており、大戦から100年経った今日でも、毎晩8時に欠かさず戦没者追悼のラッパの音色が鳴り響く。この巨大な門をみると、戦争の悲惨さを忘れずに後世に伝えていこうという人々の強い意志をひしと感じる。なお、イーペルは日本の広島市と姉妹都市であり、緊密な友好関係にある。
3年に1度と、なかなかお目にかかれないイーペルの猫祭り。もし機会があれば是非行かれることをお勧めする。次回は、2018年5月13日に開催予定である。