忘れられた野菜(2)トピナンブール(キクイモ) Topinambour
2016年1月
歴史
トピナンブールは、現在ニューイングランドと呼ぶ、アメリカ合衆国北東部の6州を合わせた広大な地方に住んでいたインディアン*が栽培していた 多年生の植物である。
*イギリスのピューリタン入植と同時に虐殺の対象になった部族。
最初にこの植物に興味をもったのは、カナダ総督で探検家のフランス人、サミュエル・ド・シャンプランSamuel de Champlainで、アーティチョークの底と似た風味に興味をもち、1603年フランスへ「トピナンブール」という名前で紹介した。それゆえこの植物を「カナダのアーティチョーク」とも呼ぶ。
この不思議な名前の由来はブラジルの部族名トピナンブスTupinambus (Topinambous)から来ている。尚、英語では「エルサレムのアーティチョーク」artichaut de Jerusalemと呼ぶが、エルサレムから来たわけではなく、これはイタリア語のジラソーレgirasoleがなまって伝わったからだ。ちなみに、ジラソーレとは太陽の花「ひまわり」のことで、事実、トピナンブールの地上の部分はひまわりの様に太陽を回る。キク科のひまわりの近親がトピナンブールというわけだ。トピナンブールは1,8メートル~ 4 メートルにも達するので、中近東やアメリカ南部では装飾で垣根代わりにすることもある。
トピナンブールが紹介された10年後、ブラジルのトピナンブス族がフランスを表敬訪問したこともあり、この地下茎は次第に知られるようになった。しかしその後ジャガイモにその地位を取って代わられることになった。
ジャガイモの登場
アンデス山脈周辺で偶発的に発生したと思われるジャガイモは、16世紀スペイン人による新大陸発見まで旧大陸では知られていなかった。アントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエの功績により、18世紀後半からフランス人の食卓に上るようになったジャガイモの登場で、トピナンブールの姿が薄くなっていった。
しかし、貧しい土地でもよく収穫されるトピナンブールは、第2次世界大戦後、再び注目された。ところが、その後の裕福な時代になると、再び見向きがされなくなった。ところが近年になり、有名シェフ達が「忘れられた野菜」と銘打ち、使い出したことと、その効用が認められ、再度市場に登場したわけである。
*ジャガイモに関する当ボナペティの記事(2013年11月号食材)
効用
生はカリウムに優れ、鉄やチアミンの良い供給源なうえ、ナイアシン、リン、セレン、銅、マグネシウム、葉酸、パントテン酸も含む。特にイヌリンというでんぷんの仲間の多糖類を含み、フルクトースに分解される。このため血中のブドウ糖の濃度を下げるといわれ、機能性食品として利用されている。しかし一部の人には鼓腸、つまりガスがたまりやすい現象を引き起こすので、こうした傾向の人は、最初は少量食べるようにしたほうがよい。尿の出を良くすることも知られている。キクイモは殺菌作用をもち、母乳の出が良くなるといわれている。
調理方法
トピナンブールは節くれだったゴツゴツとした姿で、生姜の根に似ている。色はベージュやうす紫、赤もある。黃白色の果肉はシャキッとして多汁質、甘みと繊細な風味をもつ。収穫する季節により風味が異なり、最初の霜が降りる頃がおいしい。
生でも調理してもよく、マリネにも向いている。サラダに入れるとフレッシュ感が出る。切ると酸化して黒くなるので、酢やレモン汁を入れた水に直ぐ浸してから調理する。その他ピューレ、グラタン、スープやシチュー、生クリームを使った料理に合う。じゃがいもと同じ様に使用でき、薄い皮も食べられる。注意することは、調理は加熱時間を極力短くすることで、ほんの1,2分でまずくする。これを避けるには、オーブンで焼く、蒸す、炒めるなどがうまくいく。アルミや鉄の鍋を使うと酸化して色が悪くなる。もし皮が気になる場合は、調理した後すぐ皮をむく。冷凍は不向きである。
参考文献: dictionnaire des aliments Solange Menette Cuisine
Des Légumes Jean-Marie Pelt Nature