チーズ fromage Cheese

 

2012年8月

始めに“乳”ありき…

 

  チーズの誕生は新石器時代にまでさかのぼるといわれる。紀元前7000年、狩猟生活から牧畜生活に移った人類は、家畜の乳が凝固することを知る。乳はそれ自体が栄養の宝庫だが、すぐに飲まないと傷むという欠点がある。しかし放っておくと固まるという自然現象に着目。これが理想的な“乳”の保存方法だと気付いた時、チーズの歴史が始まった。  

 

 スイス、ヌーシャテルの湖のほとりで発見された紀元前約5000年の壺には、無数の小さな穴が開けられていた。似たようなことが、エジプト、シュメール、マケドニアでも行われていた。それらの事実は、この時期の人達がすでに凝固という現象を充分にコントロールしていた証である。当時のチーズ作りは、まず凝固させヨーグルト状のものを作り、枝で混ぜ、重石で圧し水分を除く。太陽で乾かした後、塩や香料をまぶして保存するというものだった。  

 

 辞書によると、チーズの日本語表記は乾酪。飛鳥時代には既に作られていたという。英語はチーズ(Cheese)、フランス語ではフロマージュ(Fromage)、ドイツ語でカース(Käse)だ。ところで、フランス語はラテン語のformaticusが語源である。ラテン語は「型(容器)の中で作られたもの」という意味だ。このformaticusのformが変化してフランス語のfromageとなったわけだ。尚、チーズのイタリア語はFormaggio。よりラテン語に近いことになる。チーズはホメロスから聖書に至るまでの古代叙事詩、記述書の中に既に登場するが、これは今でいうフレッシュチーズ(フロマージュ・ブロン)のタイプであったらしい。  

 

 古代ローマ人は、偉大な功績を数々残した優秀な国民であった。その一つに、チーズ作りへの画期的な改善がある。脱水をさせるための重石を改良し、効果的な機械も発明した。また凝固剤として動物の凝乳酵素を使う以外にも、アザミの花やいちじくの青い皮の汁を利用したりした。 

 古代ギリシャ・ローマ人はチーズそのものを食べる他にも、積極的に料理に取り入れた。また甘くしてデザートや菓子としても工夫した。 現在でも下記のごとく、立派に料理として残っているものが多い。 ・savillum/セモリナ粉にフレッシュチーズと蜂蜜を混ぜて土器に入れ、消炭で焼く。

・moretum/チーズ、ニンニク、スパイスを混ぜ合わせた香辛料。

・チーズのシチュー/チーズ、塩漬けの魚、脳、ゆで卵、香辛料が入ったシチュー。

蛇足だが、上記のシチューは、パリの有名なレストランTailleventで、 「Brouetd'oeufs et de fromage」として、多少アレンジはされているがメニューに載っている。

さて、ローマ帝国崩壊後は修道院が精神的にも文化的にも指導者となり、開懇、酪農、医療、ホテル業、建築などの多方面にわたり貢献をした。食物に関していえば、飲物とアルコール、チーズ、菓子の3分野において重要な役割を果たした。                                                                     続く...