2013年2月
シコンはホワイト・アスパラガスと並びベルギー特産の野菜です。チョッとほろ苦くシャキッとした食感がたまらない冬野菜の定番中の定番。ところがあの美食王のルイ14世は食べたことがありません。広大な植物園を有し、一年中アスパラやオレンジを食べていたというのに何故でしょう? 実はその頃は生まれていなかった野菜なのです。
シコンの生い立ち
シコンの先祖は野生のチコリです。野生のチコリとは、タンポポの葉の様にギザギザがある葉をもつ背の高い植物で、野原や畑によく見られます。この仲間には、かさばった葉をもつキク科のサラダ菜のカーリーチコリやエスカロールがあります。
この野生のチコリの「根」からシコンなる野菜が作られたのですが、発見説が2つあります。いずれも19世紀の中旬、①ベルギーの農夫が畑を堀っていたとき、うす黄色い茎をつけた野生のチコリの根を見つけた説 ②ブリュッセル植物園の園長が、地下室に置き忘れてあった野生のチコリの根から、クリーム色をしたチューリップ型の葉が伸びているのに気がついた説。
いずれにしろ野生のチコリの芽が、「暗く温かい土の中で、土の重みで重なり合い、細く上に伸びる」、という現象に気がついた園長(植物学者)ブレジエール氏が、その後数多くの改良を加えて作り上げた園芸作物がシコンなのです。もともと園長はチコリの根を使って、コーヒーの代用となるものを開発していたのです。尚、今日でもチコリの根を使ったシコレchicoréeという飲物があり、腸の働きを活発にするのでコーヒーの代わりに愛飲されています(スーパーで購買可)。
その後、サブンテン村の農夫が「地中にパイプを通して温風で温める」という画期的な方法を考案したのと、ブリュッセル、メヘレン、ルーヴァンを結ぶ三角地帯の土壌が最適だったという偶然も関与して、この三角地帯がシコンの一大生産地になりました。寒さに向かいますます元気になるシコンの性質と風土、辛抱強く真面目なベルギー人の気質により、ベルギーの優秀な輸出野菜となりました。
尚、シコンの日本語訳はチシャ。エンダイブとも呼ばれますが、ベルギーのフランス語圏では「シコン」、フラマン語圏では「ウイットローフ(白い葉)」と称します。フランス人がエンダイブという理由は、この新野菜が初めてパリの競り市に登場したとき、セリ人が名前を知らず、とっさにブリュッセルのエンダイブと叫んだためで、ここから混乱が生じたわけでしょう。ブリュッセル・チコリと呼ぶところもあります。
手作り栽培
ブラッセルからルーヴァンに向かい、車で20分のところにある農家“Bosveldfarm”を見学しました。延々と広がる畑の真中にドーンとある巨大な倉庫の中でシコンは誕生します。シコンは安く手に入るので、簡単に作れるのかと勝手に思っていましたが、2回にわけての栽培はとても手間暇がかかります。
第1ラウンド:
早春に植え付けます。春に土中で根がのび、夏になり50㎝位の高さの青々とした立派な葉が茂る頃、土中の根は養分を充分に吸収。秋の収穫時にはちょっと太目のごぼうという感じになります。大きな緑の葉を地上から2㎝のところからバッサリと切り捨て、地中に残った根を掘り出します。これがシコンの親なのです。この根を1ヶ月以上寒気にさらし、代謝を活発にしてやります。
第2ラウンド:
きれいに土を除かれた根がいよいよ倉庫の中の苗床に移植されます。ここでまず1回目のチェックが行われ、良質の根を選出します。その基準とは、①ひげ根があまり多くないこと、②根の頭部(葉のついていたところ)の切り口の中心がきれいな薄黄色(シコン色)であるもの。不合格品はここで畑の堆肥行きです。長さ10m、幅2mの苗床は、フワフワと柔らかい土で覆われています。ここに、根を間隔をあけずにギッシリと並べ、その上に厚さ30㎝くらいのフワフワの土をかけ、更に黒い幌で土全体を覆います。この“ギッシリ”と、上からの土の圧力のおかげで、シコンは広がらずしっかりと巻いた葉になるのです。シコンから光を遮断するため、土と幌そしてこの苗床は倉庫の中にあるため、3重のガードがされます。
ところで、シコンの栽培方法は長い間秘密にされており、ベルギーのスペシャリティになっていました。しかし「秘密」ほど他に漏れやすいものはなく、まず北フランスで栽培が真似され、今では多くで栽培が行われています。
第3ラウンド:
4~5週間後、幌を一部開け、土を手でそっと掻き分けると、シコンたちが行儀よくズラーッと並んで育っています。熊手のような道具で土を少しずつ掻き分けては、シコンの帽子をかぶった根を丁寧に掘り出します。ここで2回目のチェック。良いシコンは根からポキンと折り保存。先が開いたり、巻きが充分でないものは根ごと堆肥行きになります。外側の土のついた葉は剥いで、中のきれいな部分だけにして化粧箱に詰めて出荷です。
水栽培
水耕栽培とは手間がかかる手作業の多い伝統的な作り方を一挙に解決し、大量生産を可能にした画期的な方法です。すなわちシコンの原種を改良し、土中にぎっしり植えつけなくても、しっかりとした巻きのシコンになる「新品種」を作り、土を不要にしてしまったものです。土の代わりは、なんと栄養剤入りの水。溶液入りの容器(苗床)を何層も重ね、完全に光をシャットアウトしたところでシコンは育ちます。フランスはこの方法で今やシコン生産ヨーロッパ一。でも、この方法のシコンはシャープな苦味に欠け、水っぽく、特に日持ちがしません。
良いシコンとは小ぶりで巻きのしっかりした乳白色のもので、長さは直径の約5倍が理想的です。シコンは洗う必要がなく(水につけると苦味がまわる)気になるなら1、2枚葉を取り除くか、湿ったキッチンペーパーで拭くぐらいでよい。芯のところが最も苦いので嫌いな人はそこを切り除くと食べやすい。取りたてのシコンは輝くように白く、葉はほろ苦い中にも甘さが感じられ、そのまま何もつけずにいつまでも食べていたいほど美味しい。葉が緑色がかっているものは、古いか陽にあたった証拠。
シコンは下記の効能があるので、大いに食べたい安くて美味しい庶民の味方です。
ビタミンC、カリウム、パントテン酸、リボフラビン、食欲増進、体組織の浄化、肝臓の働きを助ける、排尿促進、消化を助ける、無機質補給、強壮効用。