2013年1月
グレーの小エビとは
ベルギーの北海で獲れるグレーの小エビは、ワインに例えるなら銘醸ワインのグラン・クリュ。前夜の水揚げが、朝には魚市場に届きます。この小エビは一年中捕獲できますが、8月から11月にかけてが特に美味しく、「北海のキャビア」と称されます。オステンドやニューポートに行ったら、アイスボックス持参で、是非朝市や魚屋にお出かけください。その新鮮さと美味しさにびっくりすることでしょう。
学術的には「Crangon・Crangon」というのがこの小エビの名称。一般的に「 crevettes grises=グレーの小エビ」と称される。愉快なことに、この呼び方は雌の子ヤギを意味するフランス語の「chevrette」から来ている。なぜなら、この小エビが砂地をピョンピョン移動する姿が、まるで子ヤギのそれと同じだからだ。この小エビのことを雄ヤギ、またはバッタと呼んでいる地方もある。
グレーの小エビは十脚類に属し、体長は5~6センチと小さいが伊勢海老やオマール、テナガエビの仲間で、平べったい体型をしている。砂地に生息しているため保護色のグレーがかった半透明の色をしているので「グレーの小エビ」と呼ばれるが、生息している場所により薄い茶色にもなる。その行動は光と潮の満ち引きに左右され、日中や引き潮の時は水辺の砂の中に隠れ、夜間に活動し海藻やプランクトンまたは微小動物を餌にしている。
小エビといってもピンキリあり
グレーの小エビは、ベルギー、オランダ、イギリス、ドイツ、そしてデンマークやバルト海岸沿いの砂地に生息している小型の甲殻類である。だから特にベルギーの名産ということはない。しかしベルギー産が美味しいわけは、冷凍保存もせず保存剤も使っていないからだ。
小型トロール船は、ベルギー海岸線から5キロ以内の範囲で小エビを捕獲。直ぐに船上で加熱する(そのため売られているものはピンク色をしている)。水揚げされた小エビは、グラグラ煮立った120リットルの海水入りの大鍋で30秒間茹でた後、大きなザルに広げて冷却する。このため、ツヤツヤと輝く殻と締まった身の小エビが、翌日の朝には手に入る。
他国ではどうやって捕獲しているのだろうか。オランダを例にとると、大型トロール船は海に出ると少なくとも1週間は戻ってこない。このことから推測すると、保存剤の使用や冷凍などは否定しがたい。また、ある国の船は捕獲したものを労働力の安いモロッコに運び、そこで殻をむく処理をした後、積んで帰って来るとも聞く。モロッコまでバカンスに行った小エビが、ベルギー産のものに比べ、味も風味も劣るのは至極当然といえる。
もう一つベルギー産の特徴を挙げると、鮮度だけでなく、人の手で殻をむいたものが入手できることだ。「épluché à la main =手でむいた」と表示されているものは、殻むきの達人(主に女性)が、驚くべきスピードであの小さいエビの殻をむいたもの。むいた身の横に優に3倍はある殻の山を見た時、その忍耐に恐れ入ったものだ。
馬に引かれて小エビ獲り
小エビを実際に獲っているところを見たければ、北海の町Oostduinkerkeに行くとよい。毎年4月から9月末まで(*)、昔ながらに馬に乗っての小エビ獲りが海岸で行われる。大きな引き綱をつけた何頭もの馬がダイナミックにジャブジャブと海に入って行く様は、豪快な夏の風物詩である。それを操る漁師は、伝統芸を伝えていくことに燃えるボランティアの海の男たちだ。漁が終わると獲ったばかりの小エビを海岸で茹でて振舞ってくれる。茹でたての小エビを殻つきのまま頭から丸ごと食べよう。旨みがギュッと詰まったコクがある味わいに、この小エビの実力を確認すること間違いなしだ。
もし自分で獲ってみたければ、引き潮が止まった静かな頃で満ち潮が始まる直前を狙い、波打ち際に沿って、網を引きながら海岸を歩けば簡単に獲れる。
(*)実演の時間/日程は潮の引く時間によって変わるので、Koksijde-Oostduinkerke地方の観光案内を参照。
料理方法
小エビの代表的な料理はトマト詰め(tomate aux crevettes grises)。小エビをマヨネーズなどで和えて、中をくり抜いたトマトに詰めたものだ。以前日本人シェフが日本のテレビで、ベルギー料理としてこれを紹介していた。グレーの小エビの代わりに日本産の小さなエビを使っていた。美味しいはずだとは思うが、あれはベルギーで食べるものとは同じ味ではなかったはず。なぜならこの小エビの味は他のエビでは絶対代用できないからだ。
食材が良いのであまり手を加えないものが適している。単純にレモンを絞りかけ、穀物入りの噛みしめると味のあるパンと一緒に楽しむのが良い(白いパンではパンが負ける)。温製としてはコロッケが有名だが、日本人にお勧めは天ぷら。小さいエビがしっかりと濃厚な味を出すことに驚くことだろう。