クリスマスの伝統的なパン クニュ(Cougnou)
2015年12月
12月の初旬になると、どこのパン屋やパティスリーにも「クニュ」と呼ばれるパンが登場します。これは、ベルギーやフランスの北部で、サン・ニコラ※からクリスマスの期間だけ出回る、干しぶどうやパールシュガーが入ったヴィエノワズリーのことです。
※12月6日に聖ニコラがプレゼントを持ってやってくるといわれている子供のための祭
クニュは丸みがかった長方形のパンの両端にさらに丸い膨らみがつけてあり、人形のような形をしています。この形は誕生したばかりの幼児イエスがおくるみに包まれている姿といわれていますが、また一方、トランプの絵柄を真似て作られたという説もあります。
その説によると、その昔ベルギー南部のワロニー地方では「ケニュquenieux」と呼ばれた小麦粉と卵、牛乳を捏ねて作ったパンがあり、その起源は9世紀頃に作られていた三角形の小さな菓子「コニャーダconiada=小さな角」といわれています。当初三角形であったケニュが、14世紀頃、中東から持ち込まれたトランプに描かれるジャック、クイーン、キングの「上下対象の絵柄」をヒントに、現在の形になったと考えられています。でもいつ頃からこの形になったのかというと定かではありません。しかし少なくとも1560年には現在の形をしていたことが分かっています。というのも、ベルギーの画家ピーテル・ブリューゲルの1560年作の「Les jeux d’enfants (子供の遊戯)」の中に、クニュの形をしたパンを持った少年が描かれているからです。
クニュの上には砂糖菓子やマジパン製の幼児イエスが乗っていますが、1950年頃のエノー州では素焼きや陶器製のメダル型が使われていました。全てが手作りで、手描きの絵柄は1,200種類もありました。今でもメダル型の陶器を乗せたクニュを作っている店もあります。なお、同じパンをモンスやエノー州では「クニョルcougnole」と呼びます。
また、北フランスのパ・ド・カレー県のアルトワ、シャンパーニュ、フランス東部フランシュ・コンテ圏、プロバンス地方にもクリスマスのお菓子で似たような発音をするものがあるということです。
クリスマスシーズンの行事食となったクニュですが、中世では領主や雇い主に差し出す献納物または小作料とされていたのです。それがやがてオレンジ(当時では珍しいもの)などと共に、子供へのプレゼントとなりました。面白いことに、19世紀頃のナミュール州のアンダンヌ(Andenne)では、クリスマスミサの後にトランプゲームが行われ勝者に贈られる景品でした。いずれにしても、様々な形で受け継がれたクニュは、クリスマスを祝うためには欠かせない食べ物であることに違いありません。
参考文献:Etude réalisée par Marc Moisse, Bibliothécaire de la Ville d’Andenne – Décembre 2006.