いちじく(無花果)

2016年9月

アダムとイヴがエデンの園で食べた知恵の実。実は「リンゴ」でなく「イチジク」だったという説をご存知ですか。彼らが身にまとうためにイチジクの葉を使ったのも、その木の禁断の実を食べたから。イチジクは昔から「知恵の木」と呼ばれていました。日本ではあまり讃えられることがない果物ですが、ヨーロッパでは現在でも大モテです。

 

甘い薬

イチジクは、オリーブ、ブドウ、ナツメヤシ、ザクロと共に世界で最も古い果物の一つで、地中海沿岸や南西アジアが原産です。その滋養、薬草的な効果が太古から高く評価されていたうえ、人間が砂糖を発見する前は、高価すぎる蜂蜜の代わりとして、庶民にとっては唯一の甘味料でした。この食べて美味しい薬はフェニキア人(現在のレバノン辺りに住んでいた人々)が広めたといわれています。

 

フェニキア人は、古代の地中海においてギリシャ人に先立ち、植民・貿易活動で活躍した商業民族です。彼らが保存食としてイチジクを船に積み込み遠征をした結果、地中海沿岸一帯にイチジクの栽培が広がりました。イチジクを天日で干し、いくつもまとめて紐を通しイチジクの葉で包んだものは、多量の糖質が保存性を高めるので腐りません。古代の人々はこれを持って移動しました。旅の終わりには乾燥イチジクとして美味しく食べられる状態、または植えられる状態になっていたのです。こうして有名なリディア(現在のトルコ)のイチジクが、イタリアへ渡り定植されました。

 

イチジクを繁殖や多産のシンボルと崇めていたバビロンでは、収穫時に盛大な祭りを催し、ギリシャでは、司教がその収穫時期を告げるぐらい貴重な果物で、輸出は禁止されていました。その幹と枝は凝固力をもつ乳液を含んでいるので、チーズの凝固を早めるためイチジクの枝を攪拌に使っていたとの記録があります。

古代ローマの博物学者大プリニウスは、乾燥イチジクは運動選手向けの食事に取り入れるべきもので、「肉かイチジクか」というほど重要なものだと語っています。ローマの創始者ロムルスとレムス兄弟はイチジクの木の下で生れたと伝えられているため、ローマ人は大のイチジク好き。イチジクと生ハムを組み合わせるなど美味しく食べる方法をたくさん考案しました(メロンと生ハムはこれの応用でしょうか?)。また柔らかく美味しいフォアグラを得るために、大量のイチジクをガチョウに与えて太らせもしました。彼らは征服したガリア地方にブドウと同様イチジク栽培を試みましたが、残念ながら寒さの厳しい北の気候には適しませんでした。

イチジクは果物?

花がひとつも見当たらないのに実がなるので、漢字で無花果と書きます。でも花はしっかりあるのです。イチジクの花はとても小さく多数で、閉じられた花托(花がつく部分)の中にびっしりと並んでいます。私たちが果実と思っているものは、この多数の白い小花を密生した花托が壷状に肥大発育したものです。イチジクコバチにより受粉した花は、この壷の中で外側からは見えないまま発育し、無数の固い果実となります。これを私たちは種のように思っているのです。要するに、イチジクは、果実ではなく花の台座の部分なのです。

健康食品

イチジクはカリウム、ビタミン類やカルシウム・マグネシウム・鉄分などのミネラルを多く含むアルカリ性食品で、人間の身体の生理作用にとても重要な働きをします。主成分は糖で、約15%含まれており、大部分は果糖とブドウ糖です。プロテアーゼというタンパク質を分解する酵素が多く含まれているので、肉などと一緒に食するとコレステロールの分解にも効果的で、食後のデザートにも最適です。

また植物繊維の宝庫といわれ、健胃、整腸、潤腸作用があり便秘解消の助けとなりますし、豊富なポリフェノールは体の酸化(活性酸素)を抑制します。このように良いことづくしの効用ですが、生のイチジクは57kcal/100g、乾燥イチジクは250kcal/100gと他の果実に比べてカロリーが高いので、美味しいからといって食べすぎないように気をつけましょう。

買い方や料理法など

収穫は6月中旬~7月初め、8月~11月初めと年2回あります。生食で一番美味しいのは10月頃出回るトルコ産と言われていますが、イタリア、ギリシャ、フランス産などもあります。

 

* 黄色や緑色は皮が薄くソフトな甘さで多汁。主に乾燥用として利用されるので生はあまり見かけない。

* 赤みがかった紫は最も汁気が多く最も甘いがとても腐敗しやすい。

* 黒は甘みがあるが少々乾いた感じ。しかし腐敗しにくい。 生はしっかりした茎と適度に柔らかく肉づきが良いものを選びます。下の方が割れてきたものが熟成の目安。冷蔵庫に入れる場合はそのままでは香りが消えるので、底を下にして重なり合わないようにして密封容器に入れてから冷蔵庫の野菜室に。

 

乾燥イチジクは10月~クリスマス頃まで出回ります。適度に湿気を含むものがよく、古くなると白い粉がつき、糖分が外に染み出てきますが、密封容器に入れておけば長期間保存できます。 食べ方は生や乾燥したものをそのまま食べる以外にいろいろあります。

* 生を薄切りにしてオリーブオイルとレモン汁をかけたものは夏のサラダに最適。

* 生ハムやチーズ、フォワグラと相性がよい。

* ポルト酒につけてから鳥、ほろほろ鳥に詰めたり、プラムを使う料理のプラムの代わりに使う。豚、鴨、ウサギ、ジビエの付け合せとしても適している。

* 甘いワインで煮て、その中にバニラアイスを詰める。

* バニラ風味をつけた生クリームでグラタンにする。

* 煮てジャムやコンポートにしてライスプディングに添える。

イチジクのタルト(6人分)

 

材料:サブレ生地 1台分

- アーモンドパウダー 120g - バター 120g
- 小麦粉 5g - 砂糖 120g
- イチジク 3個 - 卵 2個
- イチジクのジャム 大さじ2  

1, 厚さ5mmにのばしたサブレ生地をタルト型に敷く。

2, アーモンドクリームを作る。ポマード状のバターに砂糖を加え白っぽくなるまでかき混ぜる。

3, とき卵およびアーモンパウダーを数回に分けて交互に②に加え、その都度よくかき混ぜる。ふるった小麦粉を加えてさっと混ぜる。

4, ①で用意した型に③のアーモンドクリームを敷き、皮をむいて輪切りにしたイチジクを並べる。

5, 180℃のオーブンできれいな焼き色がつくまで40分ほど焼く。

6, タルトの表面にイチジクのジャムを塗り、照りだしをして仕上げる。