クック・ド・ディナン Couques de Dinant

 

2012年8月

©OPT-J.LFlemal
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 ディナンは、ナミュールから南へ約30kmのところにあるムーズ川沿いの小さな町です。川には遊覧船が行き交い、崖の上の要塞にベルギー国旗がはためき、球根のような丸い塔のある教会や可愛らしい家並みは、まるで絵葉書を見るよう。有名なビールLeffeはディナンで生まれたビールですが、もう一つ忘れてならないのが、クック・ド・ディナン。馬車や動物などのレリーフが美しいビスケットは、今も変わらぬ伝統的な郷土菓子です。

 

 

 クック・ド・ディナンは、古代ローマ人が伝えたというライ麦粉にハチミツと羊のチーズを混ぜた平らなビスケットに由来します。これは日持ちするので、中世から幾度となく敵に町を包囲されたディナンの人々にとっては大事な保存食でもありました。1774年に他に先駆けてビスケット専門店を始めたのが、メゾン・コラール。現在で8代目というこの店で、ビスケット作りを見学しました。古い農家の納屋のようなアトリエの壁には、様々なモチーフの木型や型抜きが並んでいます。その中には、開店当初から今でも使われている古い木型もありました。

 

 たった一人で作業するのが大ベテランのエディーさん。今では数えるほどになったクッキェーと呼ばれるビスケット職人です。

 まずは、小麦粉とハチミツを3対1の割合で混ぜて生地を作り、作業台の上で生地を捏ねてから麺棒で延ばし、さらに機械で薄く平らにします。そしてブリキの枠で型抜きした生地を木型に乗せます。ここからが職人芸の見せ所。力の入れ具合が肝心なのです。生地に木型の模様がくっきりと付くように手で押し付けます。木型をバンッと台に叩きつけて生地を型からはずし、鉄板に並べ、300度のオーブンで15分焼きます。焼き上がる少し前に取り出して艶を出すために大きなブラシで水を塗ります。熱く焼けたビスケットからジューと蒸気が立ち、見ている我々までハチミツのいい香りが漂ってきました。再びオーブンに戻し、焼きあがったら裏返しにして冷まします。

 大きくて硬いことでも有名なこのクック・ド・ディナンですが、思っていたほど硬くなく、両手で持って力を入れるとしんなりと曲がりポキッと折れました。「噛まずにキャラメルのように口の中で溶かしながら食べなさい」と教えられた通りにすると、口の中でゆっくりとハチミツの甘味が広がり、心が和むような美味しさでした。  

 この店にはまた、クック・ド・ランスという丸く小さいビスケットがあります。19世紀の頃、見習い職人のランスさんが、間違って生地に砂糖を入れてしまいました。でも生地を無駄にしてはいけないと、少量のシナモンを混ぜて焼いたところ、美味しかったというのが始まりでした。叱られるどころか後世に名前まで残したランスさんのビスケットは、折りやすく、まろやかな甘味と香りでパン・デピスのような風味です。

ムーズ川の船着場の真ん前にあるメゾン・コラールの店には、芸術品のように繊細で美しいクック・ド・ディナンと一緒に、ディナン郊外の醸造所で作られるビールも置いてあります。愛嬌のあるカタツムリがトレードマークで、CaracoleやSAXO、Nostrodamusなどとユニークな名前のビールです。SAXOは、ディナン生まれのサクソフォンの発明家アドルフ・サックスから名をとったもので、Leffeに似た味わいで美味しいと評判です。  

 

Couques COLLARD  

www.couquesdedinant.com